100年の孤独

I only sleep with people I love, which is why I have insomnia

こんばんは。椎名彩花です。

傘を持っていなかったから、雨が降る前に帰りたいと思って、私は早足で歩いていた。周りはとっても曇り色で、一日歩き通しで疲れていたし、風がちょっと強く吹いてきて、通りにはぜんぜん人がいなくって、壁ばっかり目について、壁も、ユトリロみたいな白色じゃなくて、くすんだ橙だし、なんだかとってもしょげてしまった。そうこうしていると雨が降ってきて、早足にも疲れてしまって、ついに諦めてしまった私は、濡れながら足裏で這ってるみたいにちいさく歩いた。
家に着くとすぐに風呂場にむかった。本当は湯船につかりたいけど、ぬれねずみのままでお湯が溜まるのを待つのもいやで、とりあえずシャワーを浴びた。冷えて固まった体にお湯を浴びせてほぐしながら、お風呂入りたいけど、なんかめんどくさいしやっぱりお湯貯めなくてもいいかなぁ・・・と思案していると、肩のところに新しいホクロを見つけた。「だめね。これは黒死病だわ」と昔見た演劇の台詞を真似すると、急に元気が出て、一人で笑ってしまった。ペストになると皮下出血で全身に黒いあざができる。それでペストの事を黒死病というのだと、何かの本で読んだ。
中世ヨーロッパでペストが大流行した時、入浴の習慣のないヨーロッパ人の間では流行したけど、入浴の習慣を先祖から受け継いできたユダヤ人は中々感染せずに、この事から毒を盛ったと疑われ各地でユダヤ人に対する虐殺が起きた。私は「やっぱりお風呂に入ろう」と思い直して、バスタブにお湯が溜まるまで、部屋でwikipediaの「ペスト」と「コレラ」の項目を熟読しながらおとなしく待った。wikipediaを読みながら鼻歌で「ペスト」という曲を作り、カップリングの「コレラ」の作曲に手をかけようとしたところで自動音声のお姉さんの「お風呂が沸きました」と告げる声が聞こえた。彼女の声はいつも優しい微笑みをたたえている。それで、急にこれまで彼女の声を無視してきた自分の心が卑劣なものに感じられた。たとえば頷くくらいのことができたらよかったのに。変わりなく、心が卑劣だったとしても。

こんばんは。椎名彩花です。


「なんだかデートみたい」と私が言うと「・・・デートじゃ、だめだった?」と彼は言った。私は彼と彼の背後にいる(物理的な背後ではなく観念としての背後です)彼女を見た。彼女は私がアイドルだった時からの友人であり、彼は彼女の恋人で、二人が付き合い始めたのはもう三年も前になるだろうか。彼は誰かの幻想のように洗練されていて、彼を見るたび、ファッション誌の広告写真みたいだと私は思った。商品不在のイメージだけのコマーシャル。とっても空虚でとってもクール。
 
「いいですよデートでも」と私は言い、彼の表情を確認する。ものごとの順調な進行を見守りその順調さに満足している人の顔。ベルトコンベアの動きを確認する工場長。試験管の中身を確認する科学者。彼はあきらかに私を見くびっていて、私が彼の思惑どおりに動くことを当然ととらえているように見えた。私の生活に不足しているものを憶測して、それを与えてやれば私がそれをがつがつ食べてしっぽを振って仰向けに寝るだろうと、そう思っているようだった。
 
私はぼんやりと彼を見て「ステキですね。モテるでしょ」と言う。そんなことないと彼はこたえる。こうして自分から一生懸命アピールしないと誰もこっちを見てくれない。大げさな身振り手振りと芝居がかった表情で彼は言う。「一生懸命アピールすればたいていOKですか」と私は訊く。意地悪だねと彼は言っていかにも愉快そうに笑う。愉快なのだろうと私は思う。愉快な工場長。愉快なベルトコンベアとしてのデート。その上に載っている私。このままいくつかのベルトコンベアを経由し、その過程で加工された私は最終的に誰のための何になるんだろう。
 
「ちょっといい気分にさせて、彼女とうまくいってないって言ったら私が簡単に自分のこと好きになると思ってるんですか?」私は架空のベルトコンベアから飛び降りて、架空の工場の架空の電源を落とした。「私のこと別に好きじゃないのにどうして私と浮気したいんですか?彼女に浮気されてそんなに口惜しかったんですか?腹いせは知らない女じゃだめで、彼女の友だちじゃなくちゃいけない、それくらい口惜しかったんですか?かわいそうですね。同情します」イメージトレーニング通りに噛まずにうまく言えた達成感と、怒りと、ほんの少しのうしろろめたさ。自分の顔が紅潮しているのが分かる。彼はさっきよりずっと愉しそうに笑って、なんだ知ってたのかと言った。浮気されたならともかくしたことまで友だちに話すんだね、そういうタイプじゃないと思ってたんだけど。女の子は怖いね。
 
「彼女の新たな一面が見られてよかったですね」と私が言うと、彼はつくづくと私を見て、それから、いいことを教えてあげよう、と言った。僕は浮気された腹いせに同じことをしてやろうと思ったわけじゃない。あのね彩花ちゃん、世の中の浮気の何割かは、してる側がわざとばらすんだよ。細かなヒントをばらまいて、あやしげな態度で、見つけてもらうのを待っている。された側は疑う、苦しむ、証拠を見つける、のたうちまわる、ためらう、ついに問い詰める。こんなに盛り上がることがあるか。何年も一緒にいたら飽きる、どうしても飽きてしまう、僕らはそれが怖い、相手が飽きているのも自分が飽きているのも知っている、それがとても怖い。「浮気されて、それで盛り上がって、うれしかったんですか?」私は尋ねた。うれしかったよと彼はこたえた。許してくれって泣きつかれてうれしかった、思い出して苦しいのがうれしかった、だってそんな目まぐるしさって、最初のころみたいじゃないか。
 
それを聞いて私は胸焼するような変な感覚に襲われて、ひとことで言うと「もう勘弁してくれ」というような気分でいっぱいになって、そのまま彼とは別れて家に帰った。別れ際、後ろからごめんとかなんとか聞こえてたはずだけど、構ってあげる気分には到底なれなかったので聞こえないふりをした。私は最初、彼は私を暇つぶしのおもちゃにしようとしているのかと思って、それで腹が立って、こらしめてやりたい気持ちだったのだけれど、彼の話を聞いていると怒るとかこらしめるとか、そんな元気は全部気化して消えてしまった。間違っていると思った。体中にやたらめったらチューブを挿されて人工呼吸と点滴と透析で無理やり延命処置を施された瀕死の老人みたいな、そんなグロテスクな恋愛関係は正しくない。
 
私はきっと正しい世界を望んでいるのだと思う。こんな事を考えるのは、私が子供だからなんだろうか。何も考えたくない。亀の甲を撫でて暮らしたい。家に着くとすぐ部屋着に着替えた。亀は甲羅の中に手足を引っ込めて完全に遁世の体だった。裏切られたような気持のままベランダに冷やしてあるエナジードリンクを取りに行くと、藍色からオレンジにグラデーションする夕焼けの空に月がでていた。空に煙るそれは世界の代わりに醜くなるような無血の英雄のようだった。その英雄は最後の晩餐の食卓に降りかかり、繊細な料理をジャンクフードに変えていき、安っぽい私の味覚をうっとりさせてしまう。悲しくなるのは、それらを残らず吐き出すための時間さえまた満足にあるのだろうということだった。私は今や、耐え切りたいのだ。

こんばんは。椎名彩花です。


もう会うことがないだろう人々に優しくされて無性に切ないというような夢をみて起きると涙が出ていた。朝食に卵のピクルスを食べた。毛布を押し入れにしまって、そこで昔親からプレゼントされたさまざまな虫の標本を見つけた。積み上げていたはずの箱はなだれていて留められた虫は崩れていた。箱を全部押し入れから出すと、クリスマスツリーか何かを収納したいと思う余白ができて、そこにアイドル時代にファンにもらったプレゼントや手紙類をまとめた箱がすっぽり入った。

ベランダでごみ袋に虫を捨てた。オレンジ色した蝶の羽根は枯れ葉と同じ散り方をした。粉々になったモルフォ蝶は割れたアルミのようだった。虫を捨てる午後のはじまり。柔らかな陽ざしが心地よく、ベランダには死が蔓延していた。隣の部屋のテレビからオリンピック中継の音が漏れ聞こえていて、それで私は「これが世界だな。これが生活だな」と思った。これが世界じゃなく、もしもこれがお話だったなら、ウォン・カーウァイの映画で流れるようなBGMが欲しいのに。

部屋に戻ると、亀が保護者のような顔でじっと見つめてくるので、仕返しにキャベツを食べさせた。私はもらった試供品のエナジードリンクをコップに移してから一気飲みして、またベランダに戻った。エナジードリンクは色が分かった方が体に悪い感じがヒシヒシと感じられてカッコいいと思う。

ここ数日はほとんど引きこもって昼も夜もなく寝てばかりいた。腰がいたい。彼氏でも作れば少しはこの生活も改善するんだろうかと思うけども、それもまたおっくうで、そもそもそんな不純な動機では相手にも失礼だし…というのは言い訳で、やっぱりどうしようもなく面倒くさくて、イヤフォンで音楽を聴きながら、亀の甲を撫でたり、ファンからもらった手紙を読み返したりして時間をつぶしてしまう。ファンの中で一人、毎月自分の近況を○○通信と題して送って来る人がいて、新聞連載の小説のようについつい続けて読んでしまうのです。

私たちにできることはただ、私たちの生活を美しく耕すことだけなのだと、誰かが言っていた。生活の在りかを知らないならば美しくできる土地はないのだろう。私の世界はベランダの柵に寄りかかりながら風に少し飛ばされていく虫の死骸の横にあって、でもそこはどこでもよいのだった。耕されるためばかりにあるのではないだろう、土地も。

こんばんは。椎名彩花です。

冷蔵庫が壊れた。冷気を帯びないそれは不気味な音のする棚に成り下がった。
しようがないからその日の食材だけ買って来て、それをベランダに置いている。冬で良かった。外気は冷たい。野菜や冷凍肉を、ベランダに持って行ったりベランダから持ってきたりするのは、前時代的で、より家庭的な気さえするのだけど(家庭菜園してるっぽいから)、朝は寒くてつらい。冷蔵庫がほしい。

雨が降った夜にベランダの食材に気づかず放置して寝てしまった時は、翌朝になってやっと気づいた自分への怒りと、それを凌駕する無力感で脱力して、床にへたり込んで泣きそうになった。というか、涙が出なかっただけで、確かに私の心はあの時泣いていた。実際のところ、雨に濡れたからと言って肉や野菜に悪影響があるかといえばなさそうなんだけれども「外に放置している事を忘れて雨ざらしにしてしまった」というのがとてもみすぼらしく感じられてしようがなかった。それでもうまったく心が打ちのめされしまった私は、もう少しで冷蔵庫の入った「欲しいものリスト」をtwitterで公開するという、物乞いのような事をしそうな精神状態だったけども、とっさに飼っている亀の甲に頬を付けてその生臭さに死にたくなるという自傷行為に耽る事で難を逃れた。「死にたい」に「死にたい」をぶつけて相殺することでギリギリのところで踏みとどまったのだ。亀には悪い事をしたと思っている。
新生活応援フェアみたいなものが、もうすぐ電気屋で始まるはずで、それまではなんとかこのまま頑張ってみる。
 
先週は未彩と遊んだ。未彩は私がアイドルだったころ、同じグループのメンバーだった。久しぶりに会う未彩は以前にもまして色が白くなって、なんだか消しゴムと人間のハーフのようだった。未彩は少し独特な子で、ときおり話がかみ合わなかったりする。例えば「昔こんなことがあったね」とアイドル時代の思い出を話題に出すと、そうだね。こんなこともあったね。と言って紀元前のローマ文明の話を始めるような無軌道さがある。でもそれと同時に、話がかみ合わないままでも相手を不快にさせない不思議なオーラを持っている。なので二人で話していると、話の着地点がなくフワフワと宙ぶらりんなまま永遠に話が続いていくような心地よさがある。

ピザを食べながら二人でとりとめのない話をする中で、自然とアイドル時代のプロデューサーの話になった。今でも時折夢に見る事がある。プロデューサは、もうどこからもイベントのオファーが来ない。私たちの力が無いから、やる気がないから、もうこのグループは活動を継続できない。と言った。私はあの時何かを言い返したかった。でも何を言えばよかったのか。自分の生殺与奪の権利を握る相手に向かって何を言えばいいのか。私には分からなかった。

第二回ポエニ戦争のとき、アルキメデスはローマと敵対するシラクサの地で画期的な兵器をたくさんつくっていた。だけど、家の外で土に図形を描いていたアルキメデスはローマの兵士に見つかってしまって、そのときにアルキメデスは「私の図形を踏むな」と言った。それで怒ったローマ兵に殺されてしまった。自分のことを殺せる相手になにを言えばいいのかよくわからない。剣を持ったままなにを言えばいいのかもわからない。だれかの目を抉ったりするだろうか。アイドルを、辞めろというのだろうか。私はいつもアルキメデスではなかった。兵士でもなかった。私は、アイドルだった。大きくなったら冷蔵庫屋さんになりたい。

こんばんは。椎名彩花です。


いつの頃からか「死にたい」と言うのが口癖になってしまって、お風呂上がりに「死にたい」電気を消して「死にたい」電車の中で「死にたい」、と、ひどい具合だった。 
私がまだアイドルだった頃のある春、あまり会ったことはなかったけれど伯母が交通事故で亡くなって、その葬儀の厳粛さに触れ、私は私の口癖の縁起の悪さに気付いた。しかし一度ついた癖は容易にはなくならず、私の口からするすると「死にたい」は流れ続け、仕方がないので「死にたい」と言ったあとに私は毎度「死にたくない」と付け足すことにした。相殺を試みたのだった。「生きたい」という発想はそのとき浮かばなかった。
 
「死にたい、死にたくない」と口癖にしては妙に長くなってしまったそれは、人前でうっかり言ってしまうとぎょっとされるので、私は気をつけていたけれど、やはりある日電車の中で「死にたい、死にたくない」。その声はごく小さいはずだったけれど、そのとき目の前に立っていた品の良い初老の女性には聞こえてしまったらしく、彼女は咄嗟にこちらを振り向きかかった、が、すぐにやめて前に向きなおった。
 
 ある日、飼っていた亀を見ていて私は亀になりたいと感じ、そう呟いてみた。しかし実際に発語してみて気が付いたが、その寂れた語感はアイドルとしての倫理観によって「亀は…無いかな」と判断を下され、代わりに「猫になりたい」と言い直した。「猫になりたい」という口癖はなかなか可愛いように思えたので、どうにか定着するよう努めたが、それは無駄な努力に終わってしまった。アイドルを辞めて以来、毎日私は亀の甲を撫でながら「死にたい、死にたくない」と呟いた。亀には悪いことをしたと思っている。
 
私の「死にたい」にはなんの苦痛もネガティブな感情もなく、ただただ無感覚に垂れ流しているだけの口癖だけれども、「死にたくない」と続けるときには、無性に情けなくなるのだった。「死にたくない」と言うとき私は何に怯えているのだろう、前言撤回が行使されずに誰かが私を殺しに来るのを恐れるのか、もしくは死にたくないという表明はすべての生の理不尽を無条件に甘受する宣誓であるような気がするからだろうか。私は誓いたくなかった、「死にたい」も「死にたくない」も誰にも約束したくなかった。だって、約束を破るのは、とてもつらいんだもの。

Stereo Tokyo の解散について思う一つか二つの事


大人ってつくづく泣かないものなのだなぁと思う。

4月に下の兄に第一子となる娘、俺にとっては姪が産まれた。当たり前な話だが赤ん坊は良く泣く。事あるごとに泣く。子どもは何歳くらいまで泣くのだろうか。人間として大人と子どものどこが違うかというと「泣くか泣かないか」というのは結構大きい要素なのではないか。

赤ん坊の潔い泣きっぷりを見ていて、逆説的に大人の泣かなさ加減に感心するようになった。何か辛いことがあって「うっ」と思う。しかし俺は泣いてはいないのだ。それにハっとなる。大人が泣くというのはどういう時なのだろうか。

今だから言うが、一度だけ彩花ちゃんに泣かれたことがある。渋谷のglad、ライブ後の接触でだ。
その頃はBiSが再始動した直後でStereo Tokyoの今後に不安要素が次々と立ちはだかり始めていた。このライブの数日前にあったトークイベントでは水江がメンバーに対して「仕事には優先順位がある。事務所内での優先順位が低いとステレオが活動を続けられなくなる」というような発言をしていて、聞いていて不愉快を通り越して怒りを覚えたのを記憶している。

いつでもヲタクがバカ全開でいれるよう、ステージ裏の事情をフロアの人間が察さないでいいように、笑顔で、時に誘うようないたずらな表情でヲタクに接していた椎名彩花が、あの日、助けを求めるように震える声で俺の名前を呼んだ。

あの時、彩花ちゃんは俺に自分の弱い部分を隠さないでいてくれたが、どうしようもなくバカな俺はただただ慌てるばかりで、彩花ちゃんの不安を上手く受け止められずにおざなりな慰めと励ましで十分に話を聞いてやる事すらしなかった。溢れ出した感情を、汲み取るそぶりすらしなかった。信頼に応えることが出来なかった。なんであんな対応をしたのか、正直なところ自分でも良くわからない。これが俺の、Stereo Tokyoと過ごした狂騒の日々で唯一の、そして最大の後悔だ。

あの日の彩花ちゃんは、自分たちの力の至らなさが原因でパーティーが終わってしまう事に対して、どうしたらいいか分からず泣いていたのだと思う。パーティーが終わってしまった今言うのもはなはだ遅すぎるんだが、この件についてメンバーは絶対に悪くない。俺はメンバーの力至らず活動が終了したという風にStereo Tokyoが歴史に残る事が許せない。そしてStereo Tokyoの解散が「残念だけど仕方がない事」にされる事が許せない。

なので、ぐだぐだと恨み節を連ねるのがみっともない事だというのは重々分かっていつつも、聞き分けの良さと言う名の諦念に身を任せてるよりは醜態を晒しながらでも「現場からの一個人の認識」を残す方を選択しようと思う。

残酷ではあるが、Stereo Tokyoは芸能と言う競争世界での勝者にはならなかった。それは事実だろう。しかしそれが解散の理由の全てではない。Stereo Tokyoの解散のより直接的な理由は、周りの大人達の怠慢であり、不誠実の結果だ。全てではなくとも、無視できないくらい大きな割合をそれが占めているという事は断言できる。メンバーは周りの大人達の怠慢と不誠実の犠牲になったのだ。

「事務所内での優先順位が低いとステレオが活動を続けられなくなる。だから事務所内での自分たちの優先順位を上げなくてはいけない」細かい表現までは覚えていないが、水江がメンバーStereo Tokyoが事務所内での優先順位が下である事を突き付けて自分たちでそれを打開していく事を求めたという点は間違いない。とても醜悪な発言だ。

事務所内での優先度を上げるための打開策をプロデュースする人間、マネージメントする人間が放棄して、それを純粋にパフォーマーであるアイドル自身に丸投げするのが正しいとは到底思えない。アイドルがパフォーマンスの向上に注力できるように社内政治的な側面まで含めて環境を整えるのがプロデュースする人間、マネージメントする人間の仕事だ。自分の至らなさを棚に上げて事もあろうかアイドル自身に責任転嫁するなんて事が許されてたまるか。

この言の卑怯なところはアイドルの習性をうまく利用して大人が子供に責任を転嫁している所にある。何をするかを自分が決める割合の高い自作自演系のミュージシャンと違い、大前提として誰かのプロデュースを受けて成立するアイドルは「コンポーザーの提示したパフォーマンスをいかに高いレベルで実現するか」こそが正義であり、それが故に「舵取りをする人間の意図を如何に正確に解釈するか」という習性が見についている傾向が強い。つまり他のミュージシャンと比べて極めて従順で受け身な姿勢が構造上染みついている。これを利用してあたかもメンバーの至らなさがこの結果を招いたかのように当事者に思い込ませるなんて事は到底まともな大人のする事ではない。

念のために言っておくが、俺はStereo Tokyoが解散することについて怒っているのではない。それはこの上なく悲しい事だが、Stereo Tokyoが解散しなくてすむような今とは全く別の形のグループだったとしたら、それが俺にとって大切なStereo Tokyoだとは限らないだろう。俺が好きなはStereo TokyoはこのStereo Tokyoなのだ。だからこのStereo Tokyoを作った水江には感謝している。だから普通に「楽しかったし、面白かったけど、ダメだったわ」で終われなかったのか。なんで「おまえらが何とかしないともうダメんなるよ?」みたいな終わり方になったのか。それが許せないのだ。

勿論この全ては詳しく実情を知る人間が見れば「何も知らないくせに好き勝手言いやがって」と思われる意見かもしれない。だが、状況を、経緯を、結論を説明すべき側がその責任を果たさない以上、俺たちは断片的な情報をつぎはぎして全体を探るしかないのだ。願わくば全ての不幸が単なる誤解であることを、そして椎名彩花が、岸森ちはなが、三浦菜々子が、西園寺未彩が、河村ゆりなが幸せな日々を過ごすことを、ついでに水江が気持ち悪い皮膚病になって酷いかゆみで眠れない夜を過ごすことを期待して、この妄言を終えたい。

党首演説

諸君、私はアイドルが好きだ。諸君、私はStereo Tokyoが大好きだ。
椎名彩花が好きだ。河村ゆりなが好きだ。三浦菜々子が好きだ。西園寺未彩が好きだ。岸森ちはなが好きだ。Stereo Tokyoの曲が好きだ。ダンスが好きだ。パーティーが好きだ。
クラブで、ライブハウスで、CDショップで、ショッピングモールで、VISIONで、タワレコで、HMVで、イオンで、柏の葉で、この地上で行われるありとあらゆるパーティーが大好きだ。
椎名彩花のエビ反りが好きだ。岸森ちはなの煽りが好きだ。西園寺未彩の私服のセンスが好きだ。振りを間違った時に焦りが顔に出過ぎな河村ゆりなが好きだ。二部制のイベントで、一部でヲタクが欲しがる曲を一切やらない三浦菜々子が好きだ。
With You で暗闇に浮かぶ5人のシルエットが好きだ。NEXTの冒頭で一列に並んだメンバーが一斉に振り向く瞬間が好きだ。PARTY PEOPLE で見ず知らずのヲタクとハイタッチするのが好きだ。AWAKEでクラップをしながらビルドアップを待っていると多幸感で視界がかすむ。
アルコールを片手に汗だくで踊る週末が好きだ。ビルドアップからドロップに合わせて空中高く放たれた風船などを見ると心がおどる。パーティーグッズで満載になったミニバンでライブ会場に乗り付けるヲタクが好きだ。前座で盛り上がりすぎて次のアイドルがやりずらそうに出てくる瞬間が好きだ。多動のヲタクが恍惚とした表情のままBPM240で手足をバタバタさせる様などもうたまらない。
高まったヲタクが最前の地蔵をなぎ倒す様が好きだ。カメラが壊れたら弁償しろと詰め寄る中年カメコに、俺の楽しい時間を邪魔したんだから弁償しろと逆ギレするヲタクには絶頂すら覚える。奇声をあげて踊り狂うヲタクに囲まれたサブカルライターの死にそうな顔を見るのが好きだ。「取りあえず外人は担ぎ上げる」というヲタクの頭の悪さが好きだ。郊外のショッピングモールで車椅子の老人がフラフラと立ち上がって音に合わせて踊り出した時には涙が溢れそうになった。

諸君、私はパーティーを、あの頃のようなパーティーを望んでいる。諸君、私とあの時間を共有した、ろくでなしのアイドルヲタク諸君。君達は一体何を望んでいる?
更なるパーティーを望むか?情け容赦のない嵐の様なパーティーを望むか?酒池肉林の限りを尽くし三千世界の鴉を殺す嵐の様なパーティーを望むか?よろしい ならばパーティーだ。我々は渾身の力をこめて今まさに振り降ろさんとする握り拳だ。だがこの暗い闇の底で半年の間堪え続けてきた我々にただのパーティーではもはや足りない!大パーティーを、一心不乱の大パーティーを!
 

                              第145回ミミミンス脳内評議会 アイドル原理党 党首演説より抜粋 
 
「明日も何か書く」とは言ってみたものの、いざ書こうとすると書けなかったり書くべきじゃなかったり書くには時間がかかったりと中々ままならないのでヘルシングでお茶を濁した。母方の血筋がガチンコの革命家なのでこういうアジテーションが好きなのは遺伝だという事にしておこう。次はあんまりふざけないでちゃんとした事を書く(ような気がする)。