100年の孤独

I only sleep with people I love, which is why I have insomnia

こんばんわ。椎名彩花です。

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「警察って呼んだことある?」って、バイト先で暇を持て余した店長に聞かれて、二回ありますよ、って答えたら、店長は「俺も二回ある」って言って、順番こにお互いの事件について話していたら日が暮れた。
「強盗とかきたら警察呼んでね、俺はこう、こう、犯人をとめるから」って店長が空中を殴った。二人いたらどうしますっていったら店長は羽ばたくみたいな動きをしていた。でも三人組かもしれませんよって言ったら、店長は「それはまずい」って言ったあと少し考えて「だけどうちに強盗なんてこないと思う。経費差し引いて三等分とかしたら取り分がもうないよね」って悲しそうにしていて、いくらなんでもそんなことは、と思ったけれど、じゃあそのときは私の財布も持っていってもらっていいですって言った。店長は「俺の財布も持っていってもらっていいや。これでやつらもアイスとか買って帰れる」って胸を撫で下ろしていた。暑いですもんね、って言って私はシュガーポットを拭いていた。一時間は拭いていたように思う。

 

帰り際、更衣室のロッカーの上に定点カメラを見つけた。

バイトは辞めた。

 

こんばんわ。椎名彩花です。

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信じる事から宗教が始まり、疑う事から哲学が生まれた。それなのに、信じても報われず、いつも疑っては裏切られた気分でいっぱいになる私から、一向に価値ある何かが生まれる気配がないのはなんという不公平でしょう。つり合いと言うものが、あるでしょうに。

それで世を儚んだ私はどぼんとベッドに身投げして、何語でもないでたらめな歌を口ずさみながら、仰向けに見上げる水槽で亀がキャベツを咀嚼するのをただ眺めた。どこからか聞こえるたどたどしいピアノの演奏。それに合わせて怨嗟のうめき声を上げる私。

 ピアノとはバスドラのキックで叩くアコギ
俯瞰された88の死、押し倒され内臓のはみ出たクラリネット
ピアノ・コンサートに出かけるのは殺されに行くということ

 しかしいくら世界を呪っても気が晴れるはずもなく、しばらくして演奏が止むのを合図に「これではいけない」と重い体を無理やり起こして気晴らしに部屋の掃除を始めた。

 

部屋を片付けていたらトランプが出てきたので、そのままひとりで神経衰弱をすることにした。記憶力を競うゲームをなんで「神経衰弱」なんて名前にしたのかしら。トランプをめくりながら「今日は部屋で神経衰弱してた」と後で日記に書くのだろうという事に気づき、なんだかとんでもない自傷行為に耽っているような気がしてきて少し笑ってしまった。不健康きわまりない言葉の響きにはなんだかほの暗いユーモアがある。そうやって部屋で一人でにやにやしながらカードをめくっていると、本当にどんどん神経が衰弱していくのが分かった。それで、またまた「これではいかん」と片づけを中断して着の身着のまま外に出た。がちゃんと重い音を立てて閉まったドアに体重を預けて、後ろ向きのまま鍵穴にカギを挿して、帰ってきたとき部屋が片付いてたらなあと思いながら鍵をまわした。

 

外に出ると午前中の雨はすっかり止んでいてゆるやかな日差しがとても気持ちいい。まぶしいのは好きじゃないけれど、暖かいのは好き。きっと前世は夜行性の変温動物だったのね。だからできるだけ日なたを選んで駅の方に歩いた。途中のコンビニで電気代の支払いを済ませて、本屋さんでしばらく立ち読みをしてから、駅前のスーパーで豆乳を買って、少し遠回りして大きな噴水のある公園を通ってまた家に戻るそのあいだ、どうにかしてもう家に帰らないですむ方法を考えてた。私は片付けするのに向いていないんだよってぶつぶつ思って、どうにかして家に帰るのを遅らせようと思って公園をぐるぐる二回周ったけれども、なんにも面白いもの落ちていない。行き倒れている人も、野生のポケモンも、ホッケーマスクをかぶった通り魔もいない。だからもう帰るしかなくなって、家に戻った。

 

鍵穴に鍵をさしこんでくるんてまわす瞬間に、私が出かけているあいだに爆発が起きて部屋が吹き飛んでいればいいのにって思った。テロリストが、隣の部屋と間違えて、とか色々あるでしょ。

 部屋に入ると開けっ放しの窓から風がびょおびょお入っていてトランプがあたりに散っていて目も当てられない惨状で、しかも無事だった。
あーあーと思った。これが絶望か。と思った。しかたがないのでタピオカの偽物が入ったアイスを冷凍庫からとってきて、ベランダに足だけ出してそれを齧った。風がびょおびょお吹いてたからアイスがだぶだぶ溶けた。すぐに食べ終えてしまい散らばった部屋と向き合う。風に飛ばされたトランプの一枚は亀の甲に乗っかっていた。私の背後、ベランダの外からは遠く橋を渡る電車の音が聞こえた。カラスたちが太陽に向かってばさばさ飛んでいくと、死んだうさぎみたいな温度で私の感情がことこと揺れた。それと同時に夕陽の一番暗いところがゆっくり部屋に滲んでいって、私の内臓はぜんぶ血色のかさぶたで覆われた。

 指の間に数枚のトランプを弱々しく挟んだまま、ベッドにくずれ込んだ私は、標本の虫みたいに夕陽でここに縫いとめられたかった。そしてそのあとで私の上に、私を許さないあらゆるものが、燦燦と降り注げばよかった。

遠くに見える橋の上を電車は今日もほしいままの速さで走る。望みさえすれば、それは私をここからもすんなり連れ出してくれたのだろうという事が、私の最後の希望だった。

こんばんわ。椎名彩花です。

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いよいよもって春だ。ベランダで暖かな日差しに目を細めているとなんだか生への執着がゆわんゆわんと揺らいでくるのであぶない。アイドルだった時はなんともなかったのだけれども、最近の私はなんだか眩しいのがあまり好きではないのです。映画が終わった後などはいつも明かりが点かなければいいと思う。ずっと真っ暗な中でごそごそしていたい。

 

 ドラッグストアとドンキホーテの眩しさは常軌を逸している。コンビニも眩しい。でもお店の眩しさは近寄らなければ良いだけなのだけど、お日様の眩しさからは逃れらない。太陽は残酷。昼がつらい。泣いちゃう。天王星は地軸がとっても傾いているから42年に一度しか昼と夜が入れ替わらないのだって、何かの本で読んで、私はそれから天王星を探した。でも最近あれはなんだか違うみたいだという事が分かったらしく、やっぱり夜が42年も続くようなことはないのだって。遠い遠い星で夜が42年続くか続かないかなんてどうだっていいのだけど、私はあの時「それなら何年も何年も夕暮れが続くのかしら」なんて思っていたの。1000日続く黄昏を思ってロマンチックな気分になったその分だけ悲しい。私の気持ちを返して欲しい。分かれた恋人に向けるような気持ちで天王星を探して真昼の空を見上げる。うぅ…眩しい…。

 

 そういえば、小学校一年生の時に「地球は今までなんかい回ったのですか!」って先生に訊いたら、先生はふざけて「三回くらいかなあ」と答えて、私はそれをすっかり信じたのでした。私は、地球はいま三回目の回転をゆっくり続けているのだと信じていたです。なので、一日に昼と夜があるのは地球が一日に一回まわっているからなんだよって教わったときに私がどんなにびっくりして、どんなに「速すぎる!」と思ったことか。あんな嘘なかったらきっとなんにも思わなかったのに。ひどい!

 

大人が子供に何の得にもならない嘘をつくのはどうしてなんだろうと思う。アイドルだった頃、ファンに息を吐くようにするすると嘘をつく人がいて、その人は私が「何のお仕事をしてるんですか?」って訊くと、北朝鮮のスパイだって言ったり「どこに住んでるんですか?」って訊くと、実家は神奈川なんだけど、今は八王子の精神病院に入院していて、今日は一次外出の許可を取ってライブに来ている、なんて言って私が反応に困るのを見て笑うのです。ある時などその人が元気がなさそうなんで心配して「何かあったの?」って訊いたら、昨日長らく空いていた同室のベッドに新人さんが入院してきたんだけど、それが昭和天皇を自称する老人で、6人部屋に昭和天皇が3人いてつらい。なんてことを言って「そこら中やんごとなくて困っちゃうよ」なんて笑うから、それが変なツボにはまってしまって笑いが止まらなくなって、それで私がチェキ係りのスタッフの人に怒られた時はファンの人を恨みました。

私もたまに真似をして、いつか誰かにつくための嘘を考えてたりするのだけども、どうにも笑ってしまって上手くいきそうにありません。

 

こんばんわ。椎名彩花です。

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小学生のとき一番仲の良かった女の子はクリスチャンでした。たまに彼女にくっついて日曜に教会に顔を出して(そしてお菓子をもらって)いたのだけれど、私はあまり神様に興味がなかったから、いつも主の祈りのあとに抜け出して教会を探険していました。教会の前には、コンクリートの壁に囲まれた小さな庭がありました。琵琶のなる木があって、空が狭くて、なんだかとても好きでした。その仲の良かった女の子は小学三年生のときに転校してしまって、それ以来会っていません。読書が好きな子。もう、顔もよく覚えていないけど。

 神父様が「イエス様は世界にあなたひとりしかいなくても、あなたひとりのために磔刑になったでしょう」と言ったのだけ、今でもよく覚えています。そのとき初めて、「いえす様、あなた」と思って、それは神様に対しての感情じゃなかったと思います。感謝とか、信仰では、なかったと思います。その日の夜、ベッドの上で丸まって、私ひとりが立つ地平面で、私ひとりの罪のため、私ひとりのいのちのために自ら十字架にのぼるキリストを想像していました。きっとその目は私を見たでしょう。私しかいないから。そして私はキリストを見る。私は、そんな想像をして丸くなりながら、そのとき、泣こうと思ったのです。まぁ、泣けなかったのだけれども。もしかしたら今ならあんな夢を見た朝は泣けるかもしれません。

 世界は私一人でないので、私はあの子が転校してから教会に行っていません。でも、大人になった今、あまり好きじゃない男の子とセックスしている時などは(そんな事は基本的に無いのだけれども)キリストの事を考えながらしている事があります。

こんばんわ。椎名彩花です。

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衣替えのために荷物を整理していたら、現国の教科書が出てきました。
教科書は水にぬれてカピカピにたわんでいて、あぁこれ確か川遊びして濡らしたんだなぁと高校の時の記憶が思い出されました。たしか5月の終わりくらい。ぬくぬくと暖かい日で、なんだか夏が来そうで怖くて、学校の近くの大きな公園まで歩いたら、綺麗で浅い川があって、私は裸足になってその中を上流に向かって走って、親子連れに振り向かれて、子供に追いかけられて、転んで、カバンがびしょびしょになって、後輩に助けられて、裸足で学校まで帰ったのです。その親切な後輩が「先輩受験した方がいいですよ」って言って、うん、私いちおう、するつもりなんだ。今日はたまたま川を走っていただけなんだ。って嘘をつきました。

 

 現国の授業で、「日本人はなんてかわいそうなんだろうね」という内容の文章を追っていて、教科書を乾かしていた私はボーヴォワールを読んでいて、私の横の子は携帯でつむつむをしていて、私の前の女の子は単語帳を作っていて、うむー、誰がかわいそうなのだ、と思ったのだけど、それはたぶん先生よね。携帯とボーヴォワールが爆発すればいい。単語帳は小鳥になって飛んでおいき。

 



こんばんわ。椎名彩花です。

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しばらく日記をサボっていました。日記を書かないでいた数か月間、何をしていたかと言うと、新しい冷蔵庫を買い、亀の甲を撫で、傘を盗まれて雨に打たれながらコンビニから帰り、なんでこんなにしょんぼりしなければならないんだろうと思いながらスープをごくごく飲んだりしていました。または、お風呂につかりながらお湯を手ですくってこれってダシがとれてたりなんかしないのかなあなんてぼんやり考えながらとぼとぼ泣いて、なんで豚骨を連想しながら泣いたりしなければならないんだろうと思って、あぁそれはだれかに愛されたいからなのだと悟り、急いで彼氏を作ったりしていました。(これは自慢ですが私はモテるのです)

3人目の彼氏(とんでもなく話がつまらなくて一週間で別れたのだけれども「スポーツマンはスポーツみたいなセックスをする」という事を学んだのは収穫でした)と別れた後、先輩の紹介でアルバイトを始めました。

先輩は高校頃のひとつ上の学年で、ひとなつっこい笑顔と物おじしない性格で私の事をかわいいかわいいってぬいぐるみか何かのように撫でまわしてきて、同学年で少し浮いた存在で一人でいることの多かった私を何かと構ってくれた人です。卒業してからは全く連絡も取っていなかったのだけども、たしか東京のデザイン系の専門学校に進学するということを聞いたような聞かなかったような。

その先輩から久しぶりに着信があり、あの頃と変わらないテンションで、わー!久しぶり!良かった番号変わってなくて。ねぇアイドル辞めたんでしょ?今何やってる?なんて言われて「専門学校に通ってます。服飾の」とでたらめを答えると、どうせ行ってないでしょーなんて呆れた声を出された。先輩こそ、って返したら、私留年した、って告白されておもしろかった。先輩が後輩になるという非常事態によく笑っていられるね!って言っていた。私が「かわいそう!」って笑うと、私、もうね、京都で仲居になろうと思って、携帯も解約して過去を全部捨てて京都に行こうとしたの。そしたら新幹線のチケット買っているときに親につかまって。「え?マジですか?」びっくりしたよ。TVみたいだった。そんなTV見た事ないけど。ところでこのあいだ鎌倉で海を見たのだけど、波がぜんぶこっちの方向に向かってきててね。「はい」ぜんぶだよ。ぜんぶ。「はぁ」びっくりした。ねえ?アルバイトしない?明日ってヒマ?忙しくなかったら会おうよ。

たとえば地下室で生まれた天使はこういう声音で話すかもしれない。アイラブユーなんて思いながら電話を切った私は、もし会って顔を見たらキスしちゃうのを我慢できないかもしれない。なんてことを考えていました。