100年の孤独

I only sleep with people I love, which is why I have insomnia

畜殺


法科大学院を卒業後、週4で豚の解体屋でバイトしている。従業員は50人ぐらい。
豚は電殺されてまず頭を落としてハラワタ掻き出すんだけどこれがとてつもなく酷い。
ホルモンも小腸大腸って仕分けするんだがとにかく匂いが凄い上にグチャグチャ。
メスの腹からは子豚がポトポト落ちて来るんだけどたまに生きてるのが居てそれを「エイッ!!」と包丁で刺して殺す。死ぬ時すごい泣き声を出す。で、床のくぼみに集めておいて仕事終わり際にホウキで集めて大型の塵取りの中に入れてゴミ箱に捨てる。

さすがに人間のやる仕事じゃ無いな、とは思う…
でも日給2万なので辞められない。僕はこの仕事で得た収入でアイドルのライブに通っている。ライブは毎週末に2部制で開催され、それぞれに物販があるのでお金がかかる。別にグッズが欲しいというわけじゃない。物販で買い物をすると応援しているアイドルのこと握手してしばらくおしゃべりができる。それが目的だ。
僕が応援しているのはPerfumeという3人組のグループだ。中でも「あ〜ちゃん」の愛称で親しまれる西脇綾香さんのことが大好きで、ちょっと口に出すのは恥ずかしいけれど僕は彼女のことを愛している。僕の彼女に対する想いは好きという言葉では軽すぎるし、崇拝しているという言葉では地に足がついてなさ過ぎる。僕はあ〜ちゃんの事を愛している。かしゆかもかわいいけど、あ〜ちゃんの天使性には敵わない。のっちは目が大きすぎて怖い。

今はまだ人気のない彼女たちだけど、いつかきっと世界は彼女たちの存在に気がつくはずだ。Perfumeはお粗末なパフォーマンスを愛嬌でごまかすような凡百のアイドルとは違う。ダンスも本格的だし、音楽も特徴的なテクノポップを最先端のセンスで再解釈していてかっこいい。ただあまりにハイセンスだから、大衆向けじゃないかもしれないっていう危惧はある。鈍感な大衆がその価値に気がつくまで僕たちがなんとかして彼女たちを支えてあげる必要がある。だから僕は今日も母豚の腹からぼとぼとこぼれ出る子豚を包丁で刺し殺す。

出産前に裂いた腹からこぼれ落ちた子豚を刺した時のピギーィイ!!という鳴き声が、産声なのか断末魔なのかどちらにあたるのか僕には分からない。豚は電殺・解体しても大丈夫なのに、なぜ人間だけは電殺・解体してはいけないのか、僕には分からない。何も悪いことをしない豚は問答無用で電殺・解体されるのに、悪いことばかりする人間はなぜ電殺・解体されないのだろう?回数制限のある無料握手で、ルールを破って何回もループしている悪質なヲタクが電殺・解体されないのはなんでだろう?電殺・解体されるべきなのは豚ではなくてむしろ人間のほうじゃないのか?豚と法科大学院の教員を比べたら、豚と昨日のイベントの列整理のスタッフを比べたら、豚のほうがはるかに社会的に有益な存在ではないのだろうか?それなのになぜ豚だけが電殺・解体されなければならないのだろう?僕にはわからない。僕にわかるただひとつ確かなことは、あ〜ちゃんは天使だってこと。焦ることはない。他の事はこれからひとつずつわかっていけばいいんだ。