100年の孤独

I only sleep with people I love, which is why I have insomnia

メリークリスマス

体調不良からくる倦怠と筋肉痛が相まって何もする気が起きず、本棚から適当に一冊を抜き取って、パラパラとめくっていると、今から134年前のクリスマスのディナーについての記述を見つけました。

これは1870年12月25日のお話です。サン・トレノ通り231番地というコンコルド広場の近くに「カフェ・ヴォワザン」というレストランがありました。このお店の、この年のクリスマスのディナーの献立表が残されています。今年のクリスマスのディナーに迷っているあなたのためにご紹介しましょう。
  
オードブルはラディッシュとバター、鰯、ロバの頭の詰め物。スープは象のコンソメ、アントレはカンガルーのシヴェ(赤ワイン煮)、ローストはネズミ添え猫のロースト、他にもクレソンのサラダ、カモシカのトリュフ入りテリーヌ、キノコのボルドー風、デザートはジャム付の米の菓子でチーズはグリュイエール、ワインは白がシェリー・ラトゥールの1861年、赤がムートン・ロートシルトの1846年

どうでしょう?豪華ですよね。でも、ローストのあたりでちょっと違和感を感じる人もいるかもしれません。
勿論このお店がゲテモノ料理の専門店というわけではありません。このブログを見てるのはみんな失楽園を原書で読むような鼻持ちならないインテリばかり(俺がジョン・ミルトンエルトン・ジョンを混同して話してる時に優しく皮肉ってくれるような美女は一人もいない)なので知っているかもしれませんが、この年、フランスは普仏戦争の真っただ中だったのです。この年の9月19日から翌年の1月28日の降伏まで132日間、パリはプロイセン軍プロイセンは後のドイツのことです)に包囲され、厳しい兵糧攻めにあっていました。マイナス13度の極寒の中、食料や石炭の補給を絶たれたパリ市民はこの年だけで5000人の餓死者と凍死者を出したそうです。クリスマスはその98日目にあたります。

コンソメにされた象は動物園のゾウで、ちゃんと名前もあります。カストールというんだそうです。革命家っぽい名前でカッコイイですね。もちろんカンガルーやロバにも名前があったんでしょう。まぁ可哀想に!頭の良い象さんを食べるだなんて!なんて羨ましい!なんて非人道的で野蛮な行為なんでしょう!でもね、フランスにおいて、クリスマスのディナーはただのご馳走ではなく「レヴェイヨン」と言って聖なる勤めであり絶対やらなくてはいけないものなのです。それこそ動物園から連れてきたかわいそうな象さんを煮込んだり、路地裏から捕まえてきたネズミを高級ソースまみれにしてでも、絶対に欠かしてはいけない行事だったのです。

今日のディナーは羊の肉をもやしや玉ねぎなんかと一緒に焼いて食べたのですが、サイドメニューとして頼んだ数の子松前漬けが、店員の女の子が解凍の時間を間違ったのか見事な数の子のソルベになっていてとっても面白くて、「美味しいor不味い」という二元論から解き放たれて「面白い」という境地に達したこの料理は、レヴェイヨンじゃぁないんですけど、なんだか「ただの食事ではない」という一点において一種の聖性さえおびてるようでした。あぁそうかぁあれは啓示だったんだな。突っ返してしまって悪いことをした。ごめんよ神様。俺がもう少し勘のいい人間だったら君のメッセージを受け取って、ゲラゲラ笑いながらシャリシャリした数の子を食ってイヴの夜に使わされた推定Fカップのアフロアメリカンの天使に気の利いた謝辞の一つも捧げただろうに。

メリークリスマス。街中に溢れた浮かれた恋人たちに。
メリークリスマス。部屋でやさぐれているナード諸君に。
メリークリスマス。全裸の恋人を半ダース程ツリーに吊るして悦に入るサディストのみなさんに。
メリークリスマス。世界で一番あなたのことが好きです。
嘘じゃないさ、俺はいつだって世界中の浮かれポンチどもの味方だ。
聖なる夜、つい癖になるような、キツめの鎮痛剤と一緒に、ILLでDOPEなきみにONE LOVEを。