100年の孤独

I only sleep with people I love, which is why I have insomnia

2016/8/28 EDM SUMMER@ VISION

「ほらね!Stereo Tokyoを信じて良かったでしょ!」
2部が終わった後の特典会、開口一番、そう言って笑う汗だくの岸森。前日まで「このまま夏を終わらせたくない」等とこぼしていた美少女が見せたこの誇らしげな笑みに、俺はただもう幸せな苦笑をかみつぶすだけでした。
 
馬鹿みたいに大きな表現を使う事で自分の言葉が安くなるリスクを承知の上で言うんですけど、Stereo Tokyoのパーティーは一種の奇跡です。それがあまりにも当たり前のように毎週末繰り返されるものだから忘れそうになっていました。でもひとたびその輝きに陰りが刺すと、嫌がおうにも気づかざるを得ない。あの熱狂は、音が届く限りの全ての空間があまねく喜びに包まれたあの時間は、当たり前なんかじゃない。
 
7月末、突然西園寺がフロントからDJにコンバートしたあの週末からこの日のVISIONまでの1か月間、現場を重ねるごとにフロアに積み重なっていった不安は、それまでのStereo Tokyoのパーティーの熱狂の裏返しだったのかもしれません。
身内びいきと言われるかもしれないけど、Stereo Tokyoの現場の面々はオタクとしてのリテラシーが無駄に高い。現場の規模の小ささもあるけど、それを差し引いても異常なリテラシー(この言葉は好きではないが便利ではある)の高さだと思う。それが故に、ここ1か月のStereo Tokyoの状況がどういうものだったか、その実態はおそらく全くと言っていいほど外には伝わらなかった。いつもバカ騒ぎしているオタクどもが、椎名彩花が、岸森ちはなが、河村ゆりなが、三浦菜々子が、そして西園寺未彩が、この一か月どれほどの焦燥と不安の中で暗中模索してきたか。

最初の違和感は「まぁ回数やってりゃこんな時もあるだろ」で済む程度のものでした。しかしその小さな違和感は積み重なっていつしか不安に変わりました。そしてこのままだといつかこの不安が失望に変わる日が来るんじゃないか。そんな思いを意識的に視界の外に追いやるヲタク達。もちろん誰もそんなことを声高に話したりはしません。言わなくても隣のヤツがどう感じているか分かるから。言わなくてもフロアがどう感じているかが、ステージの5人に伝わっていることが分かってしまうから。

観客側の不安は分かりやすい形で外に出ないからこそ、内側で晴れない霧のように現場の空気に薄く膜を作り、フロアの熱を奪っていきました。それが演者に伝わらなかったはずはありません。この状況をなんとかしようと必死でもがくメンバーの姿に、この一ヶ月間、現場が終わるたびに自分が加害者になったような錯覚に襲われたヲタクは俺だけじゃないのかもしれません。でも、それでもパーティーの熱狂に嘘はつけない。あの奇跡のように楽しかったパーティーの日々のせいで、もう普通の悦びでは満たされなくなってしまったStereo Tokyoのヲタクはいつの間にか上手く嘘がつけなくなってしまいました。演者を傷つけないように、無難に盛り上がった風なていでまとめるような器用さは、5人の美少女とただただ踊り狂う日々の中で汗と一緒に脳から揮発してしまったようです。

ヲタク達の不安や焦燥は消して小さいものではありませんでしたが、この間メンバーが抱えていたそれは不安や失望ですらなく、それはもはや恐怖にも似た何かだったのでしょう。クルージングライブでのMC、熱の無いフロアに向かってにこやかに話しかける西園寺の声が、今にも泣きそうに震えていた事を俺は忘れません。
Fukuokaとの合同ワンマン、出番前の舞台袖で何があったのか。上野で、神田で、ライブの後にメンバーが何を思いどんな話をしたのか。フロアを賑わすだけのその他大勢の一ヲタクには知る由もない事だし、知っていたとして、ここでその一つ一つをつまびらかにするようなことはしません。

じゃあなんでこんな事を今さらうじうじ並べているかというと、リリイベファイナルのこの日のライブを支配していた高揚感、ほとんど宗教的熱狂と言っていいレベルの祝祭性について言及するには、それまでにStereo Tokyoのメンバーとそのヲタクたちの間に通奏低音のように流れていたこの鈍い不安について触れる事がどうしても必要だからです。この日の始まり、1部の1曲目は新曲 Join Together Now でした。

君の中の思い 手に取るように分かるから もうすぐ始まるよ そしたらまた遊ぼうね

リリックの偶然の符号に無理やり必然性を見出すのは俺の趣味じゃないんですけど、結果としてこの選曲はStereo Tokyoの今の状況のワンマンの始まりとして完璧でした。演者とフロアのお互いがお互いを理解し、気遣ったからこそ何も言えなかったこの1か月を経てStereo Tokyoからの答えが「また遊ぼうね」だったとしたらそれはどんなに幸せな事だろう。象徴的なリリックと共に照明が落とされたステージで5人の影が踊ります。そう、この一ヶ月間見る事が出来なかった西園寺の踊る姿がそこにはありました。

反射的に跳ね上がるテンションに、期待が外れる事を恐れて脳がブレーキをかけますが、アンニュイなスカのオルガンビートからビルドアップを経由してドロップのビートが鳴り響いた時、臆病な俺はやっと認める事が出来ました。「おい、これってStereo Tokyoが帰ってきたんじゃねぇの?」それは、錯覚ではありませんでした。

「帰ってきた…」「帰ってきた!」「あのStereo Tokyoが帰ってきた!」フロアにそんな意識が伝播していくのが何故だか分かりました。そこからの90分は、およそEDMというジャンルが持つ「猥雑」「即物的」と言った定番のイメージにそぐわないとても尊い時間だったように思えます。他に上手く例える事ができないので気恥ずかしさを押して言うと、それはまるで、新しい命に祝福を与えているような宗教的祝祭感に満ちた時間でした。

フロアのそこかしこから「楽しい!楽しい!」とあまりにも直接的な叫びが聞こえてきます。フロアの熱狂の渦に後押しされるようにメンバーのパフォーマンスはひときわ熱を帯び、それにあてられてフロアのダンス衝動は際限なく高まっていく。ここ1か月の負の連鎖が裏返ったかのようにステージの気合とフロアの熱狂が噛み合ってお互いを高めていくような幸せな相互作用がそこにはありました。それは、まごうことなく Stereo Tokyoのパーティーでした。この5人が、この形で揃わないとなしえない奇跡のようなパーティー。俺は死ぬまでに何回この日の記憶を反芻することになるんだろう。

 
動画を見るまでもなく思い出す、椎名彩花の深々としたエビ反り。火照った頬と汗ばんだ肌。新衣装になって明らかにStereo Tokyoにおけるセックスシンボル的な役割を担うようになった彼女。高校生の女の子がそういう風に見られることについてどう感じるかが唯一の不安ではあるけれど、俺はこれをとても良い事だと思う。それは魅力的なダンスというものには必ずセクシーさが必要だからです。これは趣味嗜好の違いによって「セクシーなのより可愛い方が良い」というような語り方ができるような他の性質と並列に比べられる問題ではありません。何故なら人類が直立二足歩行を始めた直後から音楽はダンスの供物であり、ダンスとは100倍希釈のセックスだからです。これは日本のアイドルが逃げがちな部分だからこそなお一層重要になってくる点。
 
もちろん記憶に残っているのは彩花ちゃんだけではありません。盤石、それでいてチャレンジングな繋ぎで一か月のブランクを感じさせないどころか、トータルのステージングでめざましい成長を見せたこの日の菜々子。もはやDJとしてだけではない。繋ぎを終えて戻ってきた菜々子が5人の中心で踊る様を見て、俺はStereo Tokyoが新しいフロントメンバーを獲得したんだという事を理解しました。そしてその瞬間、このライブは「楽しかったStereo Tokyoが帰ってきた」というだけではなく、今までのベストを更新するものになる。そんな予感に胸を震わせ、あらん限りの声をあげて騒いでいたのです。
 
Anthemでの岸森の姿もまた忘れられない瞬間の一つです。響く爆音、閃くストロボライト、暗闇の中に浮かぶ無数のシャボン玉の向こうでステージにへたり込んだ岸森が天を仰ぎあらん限りの力で叫ぶ「ブチ上がれ!!!!」は、この1か月の間にたまった全てのネガティブな感情に対するBIG PAYBACK!!!といった様相で、あの瞬間の高揚は今でも脳に焼き付いています。
本当に、本当に美しい時間だった。照明の暗さやヲタクが飛ばすシャボン玉が相まってなんだか海の底にいるような光景だった事を覚えています。後になって動画を見返してそこに映るヲタク達を見ながら「深海生物は神が趣味で作ったけど嫁に見つかると怒られるからこっそり隠してある品々」という言葉を思い出してヲタクとの類似点に笑いました。
 
ゆりなにも感謝の気持ちを伝えたい。本当は少し心配だったんです。1部があまりにも良すぎて、これじゃ全部1部で出し切って2部が消化試合になるんじゃないかって。でもそれは全くの見当はずれな心配で、2部のElectron、ゆりなの煽りでメンバーの一点の陰りもない気合がフロアに伝わって、そこからはもう頭の中が真っ白になるような純粋なダンス衝動と下腹部に響く低音に身を任せて全力で騒いでいました。思い返すと現場の良し悪しにかかわらず、Stereo Tokyoのメンバーはいつだって全力でした。でもそれがこの1か月、熱の無いフロアに灯をともすための足掻くような熱演であったことは残念ながら事実です。でも、この日のライブは、西園寺未彩という欠けてはならないピースをフロントに取り戻したStereo Tokyoのライブの熱狂はそうではなかった。ゆりなの気合がフロアとがっちり噛み合ってるのを見て、俺は本当にうれしくなった。
 
そして西園寺。なんか、もう何も言えない。ただただ感謝。あんなにうれしそうな、楽しそうな西園寺の顔を見るのはいつぶりだろう。帰ってきてくれて本当に良かった。本当にありがとう。ヲタクに左右されない西園寺の確固たるステージ上での自己像の確立ぶりは、彼女のアイドルとしての美意識、プロ意識の表れで、それが西園寺を唯一無二の存在にしているという事は西園寺を知る誰もが異論をはさまない点だと思うんだけど、今回の件の真相を知って、その思いをより一層強めました。
音が止まる。繋ぎが上手くいかない。自分に対する怒りや焦り、他のメンバーに対する申し訳なさで胸が一杯になる。そんな針のむしろのような状況で、それでも言い訳になるような事を一切口にせず、今の自分にできる事から逃げずに立ち向かう。口で言うのは簡単ですけど、実際にそれをやり遂げる事のなんと困難な事か。尊敬に値します。西園寺がStereo Tokyoにいてくれて本当に良かった。
そう思う気持ちと同時に西園寺に謝りたい気持ち、助けてあげられなかったという気持ちもあります。Stereo Tokyoに限らずアイドルがファンにありがとうだなんて事を言うのは珍しくもない事なんですけど、感謝なんかしなくていい。俺たちの熱狂は演者が実力で勝ち取ったものなんだから。それを誇りはすれど感謝なんかしなくていい。
とりとめもない事ばかり書いてすみません。ライブが終わって、そして西園寺からここ1か月の真相が明かされて既に数日たちますが、まだ西園寺に対して何て言いたいのか、どんな言葉をかけてあげたいのか頭の中で纏まらない自分がいます。ただ一つ確かに言えることはこの日のライブが最高だったという事、西園寺がフロントに復帰したStereo Tokyoのパーティーに早くまた行きたいという事で、つまりはStereo Tokyo最高だという事です!なんか1回もふざけないで最後まで書いちゃってて気恥ずかしいんでこれで終わり!次はベルハー&ルネとWWWX!楽しみだな!