100年の孤独

I only sleep with people I love, which is why I have insomnia

こんばんは。椎名彩花です。


もう会うことがないだろう人々に優しくされて無性に切ないというような夢をみて起きると涙が出ていた。朝食に卵のピクルスを食べた。毛布を押し入れにしまって、そこで昔親からプレゼントされたさまざまな虫の標本を見つけた。積み上げていたはずの箱はなだれていて留められた虫は崩れていた。箱を全部押し入れから出すと、クリスマスツリーか何かを収納したいと思う余白ができて、そこにアイドル時代にファンにもらったプレゼントや手紙類をまとめた箱がすっぽり入った。

ベランダでごみ袋に虫を捨てた。オレンジ色した蝶の羽根は枯れ葉と同じ散り方をした。粉々になったモルフォ蝶は割れたアルミのようだった。虫を捨てる午後のはじまり。柔らかな陽ざしが心地よく、ベランダには死が蔓延していた。隣の部屋のテレビからオリンピック中継の音が漏れ聞こえていて、それで私は「これが世界だな。これが生活だな」と思った。これが世界じゃなく、もしもこれがお話だったなら、ウォン・カーウァイの映画で流れるようなBGMが欲しいのに。

部屋に戻ると、亀が保護者のような顔でじっと見つめてくるので、仕返しにキャベツを食べさせた。私はもらった試供品のエナジードリンクをコップに移してから一気飲みして、またベランダに戻った。エナジードリンクは色が分かった方が体に悪い感じがヒシヒシと感じられてカッコいいと思う。

ここ数日はほとんど引きこもって昼も夜もなく寝てばかりいた。腰がいたい。彼氏でも作れば少しはこの生活も改善するんだろうかと思うけども、それもまたおっくうで、そもそもそんな不純な動機では相手にも失礼だし…というのは言い訳で、やっぱりどうしようもなく面倒くさくて、イヤフォンで音楽を聴きながら、亀の甲を撫でたり、ファンからもらった手紙を読み返したりして時間をつぶしてしまう。ファンの中で一人、毎月自分の近況を○○通信と題して送って来る人がいて、新聞連載の小説のようについつい続けて読んでしまうのです。

私たちにできることはただ、私たちの生活を美しく耕すことだけなのだと、誰かが言っていた。生活の在りかを知らないならば美しくできる土地はないのだろう。私の世界はベランダの柵に寄りかかりながら風に少し飛ばされていく虫の死骸の横にあって、でもそこはどこでもよいのだった。耕されるためばかりにあるのではないだろう、土地も。