100年の孤独

I only sleep with people I love, which is why I have insomnia

こんばんわ。椎名彩花です。

 

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先輩が引っ越したので、お祝いを持って新居に遊びにいった。先輩いわく「新しい家は前より家賃が5千円も安くて、駅からも近くて最高。電車が通るとゴトンゴトンいってTVの音が聞こえなくなるのが特に最高」ということなので耳栓と枕カバーをプレゼントしたらとても喜んでくれて、お礼にごはんを作ってくれた。

 二人でテレビにYouTubeのお笑いライブの動画を流しながら先輩のつくったポトフをもぐもぐしていたところ、バイト先の人が冗談通じなくて困る、私はがんばってたくさん面白いことを言っているのに、10回に1回くらいしか通じなくて、もしぜんぶ通じていたら私は今頃スターなのに、というようなことを言っていた。

スターってなんだろうと思いながらポトフをもぐもぐして、なにか冗談言ってみてくださいよ、って言ったら、先輩は茹でられてスープの中でぷかぷか浮いている白いソーセージを、フォークの先でころころまわしながら、「水死体!」って言った。どうしようと思った。冗談ってなんだっけ、と思った。心の深いところで大笑いしましたって言ったら、ごめん、って言ってた。変な空気になると気持ちよくて・・・って言ってた。変態だと思った。

 

ポトフをきれいに食べ終えて食器を洗った後、ふふふ、とかわざとらしく笑いながら先輩がカバンを漁っているので、なんだろうと覗き込むと、何かとっておきの宝物を見せるような仕草で、じゃじゃーんって口で効果音をつけながら花火の詰め合わせを取り出して来た。そのときの顔があんまり得意げだったから、愛しくて、愛しくて、大笑いしてしまって、やりましょうやりましょうって二人できゃーきゃー騒いで、笑いすぎて出た涙を袖口で拭きながら二人でシンクで線香花火をした。17時の薄暗い台所、ひんやりと透き通った空気の中で、窓からは家に帰る子供たちの自転車の音が聞こえていて、冬の花火はパチパチと控えめに爆ぜて、そのうちじゅうじゅうと濡れたシンクの底にその芯を落とした。花火に照らされて、シンクにひっついた水滴がそっと光っていた。火薬の匂いがして次第に頭の奥の方がつーんとなる。棒立ちになって、二人でいくつもの線香花火に火をつけては捨てた。

 線香花火を全部燃やし尽くした先輩が、携帯を取り出しておもむろに電話を掛けると、私の携帯がトコトコ鳴った。もしもしって私が出ると「会いたい」って聞いた事もない甘えた声で言うから、会いに行くよ、今どこ?って答えると「どこにだって来てくれる?」って受話器の向こうで言うから、そんなに遠くないならねって答えた。「ここはでもアメリカなんだけど・・・」って言う声の後ろで、中央線の発車のメロディがたららたららと鳴っていて、それはちょっと遠いねって私は笑った。