100年の孤独

I only sleep with people I love, which is why I have insomnia

こんばんわ。椎名彩花です。

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夕方、「焼きたいからフライパン貸して」って先輩からLINEがあった。今までずっとなまにくとか食べてたのかなあって思ったら涙がこみあげてきた。

 

それでフライパンをビニール袋に入れて家を出たんだけど、外に出たら春の気配がすごくってびっくりした。夕日が誰かのあこがれみたいに鮮やかに真っ赤で、いとも簡単に気持ちよくなってしまった自分があわれにさえ思えた。なんだか気が付いたら世界から自分だけが取り残されたみたいなこころもち。心がさわさわして、いてもたってもいられなくなったまま、駅に向かわずに川沿いをフラフラ歩いた。歩き方を覚えたての子供みたいな足取りで、フライパンの入ったビニール袋をテニスラケットみたいに振り回したり、気まぐれにその場でくるくる回ったりしながら歩いていると、そういえばこれが三日ぶりの外出だったことに気付いた。

 

沢山の人に言い尽くされたことかもしれないけれど、疫病が世界中に蔓延して1年以上もみんなが外出を控えるだなんて中世のヨーロッパみたいで不思議な感覚。ステージに立たなくなってここ数年、正直なところ燃え尽きたと言うか、社会の枠組みから外れて後日談のような人生を過ごしてるわけで、言葉を選ばずに言えば、こんな風に社会全体が足踏みするのは、私にとっては社会に置いてけぼりにされるより相対的に得なんじゃないかとか不謹慎なことを考えなくもないんだけど、でも本当はそれすらどっちでも良くって、むしろそんな風に自分の人生をポーンと手放しにしちゃってる感じこそが問題で、せめてやさぐれるくらいの事はしなさいよ、と自分にねだるような気持ちで空を仰ぐと、だいだい色の空に夜がにじんでいくの見えた。

 コンビニでお酒を買ってストローでちゅうちゅう吸いながら先輩に「徒歩で向かってるんで遅くなります」ってLINEしたらすぐに「なにゆえ?」って返事が来た。やっぱ電車乗れば良かったなって後悔しながら返信は無視してそのまま歩くと、飲み終わる頃には夜がだいぶ濃くなっていた。


アイドルだった頃、寂しい埋め立て地にぽつんと立ったビルの屋上でファンの人たちとバーベキューをした時に見た夕焼けがとっても大きかったのを覚えている。最近は、大きなイベントの事とかよりも、なんでもない時のふとした瞬間の事を思い出すことの方が多い。日が暮れるのが、果実が腐り落ちるみたいだって言った人がいた。その瞬間世界は腐れて醸造されてアルコールになるのだって。だから私たちは酔っ払いなのだって。その人は日の出は世界の瞳孔がひらいてゆく様だとも言っていた。夕暮れに酔っぱらって、夜通し踊って、夜を使い果たして、それで明け方に死んだ世界を愛撫するんだって。なんだよそれ。カッコつけすぎじゃない?思わずビニールに入ったフライパンで虚空に向かって突っ込みを入れると、フライパンは私の手からすっぽ抜けて真っ暗な川面に消えて行った。酔っぱらって路上でフライパンを振り回すのは止めた方がいい。あぶないから。先輩には「やっぱ帰ります」って返信した。なまにくでも食べてなさいって言ったらとっても怒っていた。