100年の孤独

I only sleep with people I love, which is why I have insomnia

こんばんは。椎名彩花です。

高い丘の上、海が見える路地裏の階段を、ぺたんぺたんとわざとだらしない足取りで降りていく。あてもなくただ陽射しを避けながら日陰をたどって歩くのは、なんだか私の人生のようだなと思った。遠く向こう側、島と陸を渡す橋を自転車が走っている。夏の夕方、自転車に乗ること以上に素晴らしいことが世の中にいくつあるのだろう。
 
今日は友達と江ノ島に遊びに行った。段原とにゃん氏とゆう君。先週できたばかりの新しい友達。
江ノ島にはお昼前に到着して、お土産屋さんとかを見て周りながらたくさん買い食いした。ラムネ、ソフトクリーム、みたらし団子。歩きながら食べるのって普段は行儀が悪くて遠慮しちゃうけど観光地だと不思議と抵抗なくできちゃう、ってことを話した時に段原がボソっと「免罪符屋さんになりたい」と漏らしたのがツボに入ってラムネを少し吹き出してしまった。とってもとっても恥ずかしくて、なんだよもう!ってなったけど、天才だと思った。売れると思うよ。行儀が悪いことをするのは楽しいものね。

 

お昼に入ったお店で、私のシラス丼だけみんなのより先に運ばれて来た。シラスの数を数えながらみんなの分がそろうのを待ってたら「先に食べなよ」って言われて、飯はなるべく一緒に食う。って言ったらみんなウケてうれしかった。何それって笑いながらツッコまれたんだけど、私も昔アイドルだったころのファンの人たちが何かの呪文みたいにツイッターに何度も載せてて元ネタとかはよく分かんないって言ったらまた笑われて、今度は少しムっとしたけど、ご飯がおいしかったから寛大な心で皆を許した。いつも不機嫌な人に「これ食べて怒るのはもうお止めなさい」って言って美味しいものをあげたのがお中元の始まりだって言われたら、今なら信じちゃう気がする。シラスはおいしい。

ご飯を食べてお酒も飲んで、もう暑くいからずっとここにいようって誰かが言いだしたんだけど、にゃん氏が座敷に寝っ転がっていたらお店の人にやんわり怒られてそそくさとお店を出た。3人で順番ににゃん氏を糾弾しながら石段を登った。後ろから全員の荷物を持って汗だくのにゃん氏がブレードランナーの真似をしながら世界に呪詛をまき散らかしているのが聞こえた。

 

おまえたち人間には信じられないようなものを私は見てきた。何にでもフレンズをつけるオタク、突然競馬に詳しくなるオタク。そんな思い出も時間と共にやがて消える。雨の中の涙のように。死ぬ時が来た。

 

こうやってにゃん氏が突然映画とかアニメとかゲームのセリフを引用すると、ゆうくんが「今のはブレードランナー」と、元ネタを解説してくれる。ただでさえ口数が少ないゆうくんは普段でも発言の7割くらいがにゃん氏の引用セリフ解説だったりするんだけど、炎天下に歩き回って疲れ切った夕方頃には完全に歩く元ネタ辞典になってて面白かった。

 

日も暮れかけてきたころ、路地裏の自動販売機で缶のメロンソーダを買って、飲みながらしばらくそこで海を眺めた。私が飲んでる缶を見てゆうくんが「メロンソーダってメロンの味しないよね」って言った。私は、だよね。とだけ答えた。たいていのメロンソーダは嘘の固まりだ。そんなの4歳から知ってる。でもわたしは騙されながら飲む。嘘は美味しい。一口飲むと冷たい緑色の嘘が食道を通って胃に流れ込むのが分かる。冷えた缶を額に押し当てると、その心地よさに心を売り渡してしまいそうになる。

最後の一口を飲み終えて昔見た映画の真似をして飲み干した缶を踏みつぶすと、メコっと間の抜けた音がした。さっきまでシュワシュワの嘘で満たされたアルミ缶の哀れな姿は涙を誘った。目を上げると、夕暮れの陽射しを反射した海面がキラキラと光っていた。遠く沖をゆっくり回る漁船の影、どこからか聞こえる猫の鳴き声、恋人たちの気配、子供たちの嬌声。優しい風に目を閉じると、雨の匂いがほのかに感じられた。段原が小さな声で「幸せだね」ってつぶやいていた。