100年の孤独

I only sleep with people I love, which is why I have insomnia

こんばんわ。椎名彩花です。

実家に帰って部屋の荷物を整理していたら、小学生の頃の夏休みの自由研究のレポートが発掘された。

 

小学生の頃、夏休みになると毎年おばあちゃんの田舎に泊まりに行くのが恒例だった。おばあちゃんの家の裏には大きな山ときれいな川があって開放的な自然がとても素敵なんだけど、それ以外は本当に何もないところだった。毎年だいたい二週間くらい泊まっていくんだけど、二、三日もすると川遊びも虫取りも飽きてしまう。そうすると近所の1歳上の子につれられて焼き場へ遊びによく行った。遺体が燃えているのを見るために。

 

ある日、そこのオバさんが棺桶の周囲にどっさりと太い薪を山積みにしていて、釜に火を付ける光景を見た。焼き場の入り口へ入ってぐるっと廻り進むと、焼き釜の裏側に出る。高さ1.5メートルほどの釜裏の側面には、直径10センチの穴が開いている。これは燃えている途中で、細い鉄の棒の先に付いているカギで開けて、中の燃え具合を見るための穴。

夏休みになると毎年のぞきに行っていたので、いつの頃からかオバさんとわたしたちは顔見知りになっていた。オバさんは無言で、わたしたちがしっかり見れるように、途中で穴のフタを開けてくれた。ある時など、遺体の遺族もまだチラホラいたけども、何を思ったのかフタを開けたままにしてくれた。中の黄色の炎がよく見えたのを覚えている。そのうち急に遺体が起き上がったので驚いた。目から水分を泡状に出しながら動いていた。泡の涙を流すそれは火鉢で焼いた時のスルメイカがクイっと曲がるのを連想させた。

その様子をオバさんに話すとオバさんは「なるたけ、あちこちへ動かないように、薪を燻べるのや、そこが腕でな」と言った。成る程なと感心し、夏休みの自由研究のテーマが決まった。

 

後日、もっと人間のスルメを見ておこうとまた行った時、おばさんが、焼き釜の入り口辺りで何かを焼いていた。

何を焼いているのかなあ、と二人で近づいて見ても、火焼きの正体がサッパリ分からない。
するとオバさんが「これはな、早産で死んだ赤ちゃんだよ・・・正式に焼いては高くつくからね、内緒で頼まれてな」と、辛そうに言って、釜から30メートルほど離れた自宅に入って行った。

二人でジックリ見ると、炭のようになっていて顔は判然とはしなかったが、確かに赤ちゃんらしい、小さな物体があった。大人のスルメと赤ちゃんのスルメは全然燃え方がちがっていた。わたしたちはしばらくその場から動けず、汗もふかずに息をのんで釜の窓を覗いていた。

スルメが真っ黒に焼け落ちたころには日はもう傾きかけていていた。わたしたちが立ち上がると、オバさんの飼い犬が構ってほしくて「ワンワン!」と鳴いていたけど、その前を、何かイケナイものを見た思いで静かに去って家路に向かった。

 

夏休みの宿題は「いろいろなスルメの焼き方」として発表した。
「資料の写真があるともっと良い発表になったね」と先生がアドバイスをくれたのを覚えている。