100年の孤独

I only sleep with people I love, which is why I have insomnia

こんばんわ。椎名彩花です。

美容室で髪を洗ってもらう時、目に濡れたタオル乗せられると、いつもwikipediaの「鯉」の項目の「さばくときは濡れた布巾等で目を塞ぐとおとなしくなる。」という一節を思い出す。

 

先輩に作り過ぎたおせちをおすそ分けしてもらった。先輩、おせちとか作るんですね・・・って言ったら「イベントごとは大事にする主義なの」って言うから笑ってしまった。イベントごとを大切にするひとはおせちを三が日に食べるんですよ、って言葉は飲み込んだんだけど、どうも顔に出ていたみたいで「まだ旧正月があるじゃない」って言い返された。そういうことじゃあないでしょうに。それで二人でおせちと名付けられた一口ハンバーグやたこさんウインナーをつまみながら録画したお笑いの番組を観た。

 

優勝が決まる瞬間までとっておいた最後の栗きんとんを名残り惜しそうに食べ終えた先輩は、テレビを消すといつもの唐突さで「新年らしいことをしたい」というので書初めをすることになったのだけども、わたしの部屋には筆も墨も、紙さえもなかったので、結露した窓に二人向かって指で新年の抱負を書いた。

窓ガラスに触れた瞬間、指先から体温を奪われる心地よさに息が漏れた。窓に映った自分と目が合って敬虔なきもちになって気が遠くなる。だって、窓ガラスに映った自分の顔の上に新年の抱負を書くのはなにか神聖な儀式のような気がしたから。それで「髪を切る」と書こうとしたんだけど「髪」の字が細かすぎて指でうまく書けないでいるわたしを置いてけぼりにして、先輩はどんどん書いていくもんだから、そんなに大きくない窓はすぐにパンパンになってしまった。そんなにあふれるほど新年の抱負が湧き出るなんてことあるのだろうかと思ったけど、それと同時に、きっとこの人にはあるのだろうという気もしていた。

 

先輩の新年の抱負でいっぱいになった窓を前にして、どれか一つに絞らないとだめですよと言うと、先輩は渋い顔をしながら「海外に行く」「鯉こくを食べる」と次々に端から指でバツをつけて消していき(私の「髪を切る」も消された)最後に残ったのは「就職する」だった。先輩、また会社辞めたんですか?って言ったら「コクトーに影響されたの」って言われて意味が分からなかった。『学校には死刑という刑罰はないので、ダルジュロスは放校処分になった』っていう一文にしびれたと言っていてたけど、よくよく聞いてみると無断欠勤が積み重なった結果の契約満了という事だった。
これ以上なく自業自得で笑ってしまったけども、やさしいわたしは泣きまねをする先輩の頭を抱えて、お母さんが子供にするみたいなやさしさで「鯉こく食べにいきましょ」と言って頭をなでた。