100年の孤独

I only sleep with people I love, which is why I have insomnia

こんばんわ。椎名彩花です。

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職質ってあるじゃないですか。警察の人に呼び止められて、色々と聞かれるやつ、職務質問。昨日、生まれて初めて職務質問を経験しました。
お酒を飲んで、ポーっとして、火照った頭を冷ますために道に寝転んで川を見ていたら、しばらくして警察の人がやってきた。なに、あんた、なにしてんの、って最初言われたんだけど、思わず「ゆ、幽霊です・・・」って言ったから、主にそのことについて怒られた。警察に嘘ついていいと思ってんの!って言われた。ごめんなさい・・・。

 

それで、色々質問されて、話してる途中で気づいたんだけど、なんだか口の端っこから血が出ていたみたいで(なんでだかわからない)(なにもかもの理由がわからない)それで警察の人は私を、なにか犯罪の被害者だと思ったらしくて、本当のことを言ってね、って何度も言われた。

「あの、ここからだと対岸の大きな道路の光が、川にうつるのがすごくよく見えるじゃないですか、そうすると川が明るいんですよ、それを見たいなあと思って、それで最初座ってたんですけど、調子に乗って寝ちゃったんですけど、だってここだれも通らないしと思って、それで雨が降ってきちゃって・・・」というようなことを出来るだけ馬鹿っぽく話した。酔っぱらって捕まったら何かの罪に問われる気がして、なんとか頭が悪いだけって事にしたかったんだけど、話しながらお酒を飲んでるってこと以外、特に嘘をついているわけじゃないので、自分の馬鹿さにちょっとひいた。警察のひともちょっとひいていた。

 

そのあと、歳はいくつ?とか仕事してるの?学生?とかまたしばらく色々聞かれたあと、ポケットの中を調べられてから解放されたんだけど、捨て台詞みたいに、そんな風にしていたら世界ぜんぶから置いていかれちゃうよ!みたいなことを言って警察の人は帰って行った。私は警察の人の背中を見送りながら、ギリギリ聞こえないくらいの声の大きさで「置いていってくれ」ってつぶやいて笑ったけど、そんなことぜんぜん、言わない方がよかっただろうな。そんなことぜんぜん、言わないほうが、いいのだろうな。本当に、そう思っているのかな。本当はちっとも、世界は進行なんてしていかないんだと思うよ。

こんばんわ。椎名彩花です。

 

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先輩が引っ越したので、お祝いを持って新居に遊びにいった。先輩いわく「新しい家は前より家賃が5千円も安くて、駅からも近くて最高。電車が通るとゴトンゴトンいってTVの音が聞こえなくなるのが特に最高」ということなので耳栓と枕カバーをプレゼントしたらとても喜んでくれて、お礼にごはんを作ってくれた。

 二人でテレビにYouTubeのお笑いライブの動画を流しながら先輩のつくったポトフをもぐもぐしていたところ、バイト先の人が冗談通じなくて困る、私はがんばってたくさん面白いことを言っているのに、10回に1回くらいしか通じなくて、もしぜんぶ通じていたら私は今頃スターなのに、というようなことを言っていた。

スターってなんだろうと思いながらポトフをもぐもぐして、なにか冗談言ってみてくださいよ、って言ったら、先輩は茹でられてスープの中でぷかぷか浮いている白いソーセージを、フォークの先でころころまわしながら、「水死体!」って言った。どうしようと思った。冗談ってなんだっけ、と思った。心の深いところで大笑いしましたって言ったら、ごめん、って言ってた。変な空気になると気持ちよくて・・・って言ってた。変態だと思った。

 

ポトフをきれいに食べ終えて食器を洗った後、ふふふ、とかわざとらしく笑いながら先輩がカバンを漁っているので、なんだろうと覗き込むと、何かとっておきの宝物を見せるような仕草で、じゃじゃーんって口で効果音をつけながら花火の詰め合わせを取り出して来た。そのときの顔があんまり得意げだったから、愛しくて、愛しくて、大笑いしてしまって、やりましょうやりましょうって二人できゃーきゃー騒いで、笑いすぎて出た涙を袖口で拭きながら二人でシンクで線香花火をした。17時の薄暗い台所、ひんやりと透き通った空気の中で、窓からは家に帰る子供たちの自転車の音が聞こえていて、冬の花火はパチパチと控えめに爆ぜて、そのうちじゅうじゅうと濡れたシンクの底にその芯を落とした。花火に照らされて、シンクにひっついた水滴がそっと光っていた。火薬の匂いがして次第に頭の奥の方がつーんとなる。棒立ちになって、二人でいくつもの線香花火に火をつけては捨てた。

 線香花火を全部燃やし尽くした先輩が、携帯を取り出しておもむろに電話を掛けると、私の携帯がトコトコ鳴った。もしもしって私が出ると「会いたい」って聞いた事もない甘えた声で言うから、会いに行くよ、今どこ?って答えると「どこにだって来てくれる?」って受話器の向こうで言うから、そんなに遠くないならねって答えた。「ここはでもアメリカなんだけど・・・」って言う声の後ろで、中央線の発車のメロディがたららたららと鳴っていて、それはちょっと遠いねって私は笑った。

こんばんわ。椎名彩花です。

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ここ数日、引きこもって昼も夜もなくポケモンばかりしていた。目がいたい。
バイトを辞めて日がなごろごろしていると、どんどん自分がダメになっていくのが分かる。視力は日ごと低下するし、頭は少しずつ悪くなる。心は狭くなるし、足も着実に遅くなる。最近は色々な事がうまくいかない。スーパーでレジに並んでいると、決まって私の列が一番進みが遅い。燃えないごみの日を間違えて近所のおばさんに注意される。風邪が治ったと思って外に出て、帰るころにまた風邪をひいている。昨日はコンタクトを洗面所で水に流してしまって、絶望のあまり亀の甲羅に頬を当てたままひとしきり落ち込んだあと、いましめのためにお風呂で眠った。

真夜中、真っ暗な風呂場で「ろくな人生じゃないな」と思って携帯を見ると、ツイッターのアカウント設定の「しあわせ」がOFFになっているのを発見して、びっくりした所で、蛇口に頭を打って目が覚めた。急いで携帯を取り出してツイッターの画面を確認したけど「しあわせ」設定はどこにもなかった。どこかに絶望している人がいたら、いくら自罰的な心もちになったとしても、風呂場で寝るのは良くないですよ、と教えてあげたい。悪夢にうなされて蛇口に頭を打つと、とても痛いから。

 

日曜日、先輩から電話があって、美術館行きたいって言うから、いいですねって言った。先輩はこのところ美術館に行くのが好きみたいで、突然どうしたのかなと思って、この前会ったときに聞いたんだけれど、そうしたら、働いているバイト先に絵がかかっていて、それがとても綺麗で、悔しいから、絵画に目を慣らしてしまいたいのだって。さっさと。まじかよと思った。なんだかこの人はすごいなって思った。
それで、ハプスブルグ展に行く事になって、上野で待ち合わせしたんだけど、待ち合わせの時間になっても全然来ないので、出店でから揚げとビールを買って美術館のまわりを散歩しながら待った。結局1時間遅刻した先輩は開口一番に「鍋しようよ」とか言いだして、私はまた、まじかよと思った。私がから揚げ食べます?って言うと、先輩はうんって言ってからもう冷めてしまったボソボソの揚げを食べながら、鍋、キムチ鍋やろう。ってまだ言ってて、やっぱりこの人はすごいなって思った。先輩の体内には先輩に食べられた牛や豚や鶏やきのこが、暮らし続けるのかと思った。そして手ぶらでどこにでもいけるんだろうと思った。鍋にはまだ早いですよって私は言ったんだけど、冬に私が死んでいたらどうするのだよとすごまれて、結局そのままアメ横で材料を買いこんで家で鍋をすることになった。とってもおいしかったので先輩には感謝した。

こんばんわ。椎名彩花です。

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今日も公園で芝生に寝転がって本を読んでいた。

ここ最近はずっとここで本を読んでそのまま流れるようにうたた寝にスライドするのが日課になってしまった。慣れというのは本当に恐ろしいもので、公園を横切る園児たちも鳩に餌をやるおじさんもすでに私にはなんの関心も払わなくなって久しい。鳩にいたってはどこか私の事をなめてかかっているところがあって、私が寝ころがっていると無警戒に寄ってきて耳元でボーボー鳩語で悪態をついてくる。今日も耳元でボーボー言われながらうとうとして、そのまま30分くらいすっかり寝入ってしまった。

 

あらやだと思って目を開けたら葉っぱが降っていた。鳩と鳩にパンくずをやったおじいさんがまだいた。なんという季節だと思った。葉っぱがさんさん降り続いたから、私と私の開きっぱなしの鞄はうずまっていった。たくさんあるなと思った。たくさん、たくさん、たくさんだなと思った。とてもじゃないけれど息ができない。私は日差しのなかにいた。真っ赤な葉が日光をきらんきらん反射していた。老いの際がこんなにも美しいなんてなんだかずるいじゃないか。呆然とする私の上に落ちてきた一枚の葉を物分りよくポケットに引き受けると、不思議と涙がこみ上げてきた。かたわらでは虚ろな目をした鳩がボーボー言っている。なんだか無性に腹が立って「見ないで」と泣きながら落ち葉を一つかみ鳩に投げつけると、鳩はボーボーいいながら飛んで行った。

こんばんわ。椎名彩花です。

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家の近くに大きな公園がある。切り株のような円形の大きな石造りの椅子がある公園。今日はその公園で本を読んで過ごした。


遅めの昼ごはんを済ませた後、何の予定もないうらぶれた昼過ぎをすりつぶすために、睡眠薬代わりの小説とコーヒーを片手に日なたの芝生に座って本を読む。公園には私と、鳩と、鳩にパンくずをやるおじいさんがいて、陽はあたたかく、風は涼しく、なんだか古い映画のワンシーンみたいだなって思った。
図書館で借りてきた小説は期待通りの退屈さで、私は10ページも読まないうちに芝生に仰向けになって本を顔にのせ、むうむうとうなっているうちに眠くなって、うとうとしていたんだけども、でもそこはうっかり保育園か、それか幼稚園のお散歩コースだったみたいで、そのうちたくさんの園児が先生に連れられて歩いてきた。

 

先頭の先生が寝っころがっている私を見つけて、眠っていると思ったのか、「しーっ!しずかに!」って言った。子供たちは列をなして歩いて、私の横を通るときだけ静かにしていた。私は子供たちのがんばりを無駄にしてはいけないとけんめいに寝たふりをして、本がずり落ちないように頭をぴくりとも動かさずにいて、この、じょうきょう!って思った。
みんな通り過ぎちゃったあとに、そっと起き上がって、おそろしいこともあるものよってどきどきして、子供たちが去っていった方を見たら、列の一番後ろの男の子がこっちを振り返っていて目があったのだけど、手をふったら、ぷいと振り向いて逃げられてしまった。

 

しばらくして日が落ちると、急に寒くなったので、コンビニでお酒を買って、飲みながらわざと遠回りに川沿いを歩いて家に帰った。川ばかりみていた夏だった。同じことをくりかえしくりかえし考える作業は、体の中に水路を掘るようだと思った。血が同じ道を何度でも辿るから、擦り切れて痛くなってしまう。もの思わぬ葦になりたいなあと思った。いや、思ったのだったか、思わなかったのだったか。

 

故郷から遠く遠くまで来てしまった人が、自分の生まれた町の海を、ほんとうにきれいなんだと言っていた事を思い出す。その人は「いつかあそこに帰るんだろうと思う」と言っていた。「浅さと深さで色の違うのが、ほんとうにきれいなんだ」と言っていた。今、私の目の前には川があって、でもそこは私の帰るところでは全然なくて、私は乗り捨てられた自転車を押し倒して座り込みながら、草まみれになりながら、葦になりたいとかぼそぼそ言って、嘘ばかり話して、遠い過去の誰かの優しさに助けを求めていた。

なにが、どうあったって、大切なことは変わらずたったひとつだろう。背中の裏までずっと照らす異様な夕焼けにやさしく血管をつぶされた私は、しばらくの間、身じろぎも出来ずにじっとうずくまって夕暮れの気配が消えるのを待っていた。

こんばんわ。椎名彩花です。

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貴族のように贅沢な昼寝をむさぼった罰として、夜中に目が覚めた。
のどが渇いて電気をつけようとしたら蛍光灯が切れていて、なんだよもーと思いながら冷蔵庫を開けると、賞味期限がとっくに切れている牛乳が未開封のまま転がっていた。
沸騰すれば飲めるのかなあと思って開けたら嫌になっちゃう匂いがしたから、流しにぜんぶ捨てた。だぶだぶ牛乳を流している間に私は今日の曜日を思い出そうとしてとていた。土曜日と木曜日の間あたりなんだけど、どうにも牛乳と一緒に記憶もだぶだぶと流れ出ているような状態で、いくら考えてもはっきりしなかった。

 

世界をもっとミルキーにすべく、この蛍光灯の切れた台所で、私はひとり牛乳を注いでいる。白く汚れていくシンク、蛇口に乗った水滴が暗がりの中で光っていた。夏の終わりに夜を乳白色に汚していく快感に耽りながら、昼間に家の前を通りがかった女の子たちの会話を思い出して「こんなに暑いと頭おかしくなって人とか刺しちゃう人がでそうじゃない、よく誰も人を殺さないよね」っていう台詞を、お芝居の練習みたいに少しずつ抑揚を変えながら繰り返した。うんうん、と思う気持ちと、暑いと人を殺す気も失せてしまうんじゃないかという気持ちが半々だった。

 

世界が充分にミルキーになった頃、パックの牛乳は空になった。空になった牛乳パックをぺこりと潰して、振り返ると窓からの明かりがテーブルにくっきり四角く、誰かの怒りのようにそれが綺麗だった。

こんばんわ。椎名彩花です。

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とても好きだという理由で、とても嫌いだった人がいた。昨日、バイトを急に辞めてヒマになったもんだから、何か夏らしい事を、と思いたってプールに行ったら、彼女と久しぶりに会った。

彼女は相変わらずきれいだった。きれいな鼻をしていたし、きれいなことを言った。ドブ川にさっと投げ入れられた真っ白いドジョウみたい。私はちょっとたまらない。

彼女が泳ぐのをずっと眺めていた。ときどき人を好きになるけれど、私はそんなとき、なるべくその人から才能を差し引こうとするし、なるべくその人の世界をじっと見ないようにする。だって私は他人の世界が欲しすぎる。他人に憧れすぎるし、妬みすぎて、目が潰れるから、無残だ。誰かが見る世界がいつも欲しい。何かをねだるような気持ちで映画を見て、本を読んで、ついにはそれが私の物にはならないということを悟って、めそめそと涙を流すのです。私は私の胃のなかにいっぴきの亀を飼いたい。世界で一番きれいなのがいい。甲羅の上に蓮の花が咲いている。そして私はその亀と蓮のために毎日ドブを飲んでいる。何かを引き当てようとするみたいに。

そんな悲しい想像をしていると、あんまり私が無残で、あんまり私がかわいそうだから、だから、人を好きになるときになるべくその人の才能を削いで削いで、笑ったときの睫毛の揺れる感じだとか、クロールのとき、水を掻き分ける腕の動きだとか背筋の動きだとか、そういうのだけを愛そうと決めていたけれども、うまくいったことなんて、そういえば一度もない。