100年の孤独

I only sleep with people I love, which is why I have insomnia

こんばんわ。椎名彩花です。

新しい友達ができた。
6月にバイトをやめて(私は労働に向いてない)からというもの、ずっと家でアニメばかり見ていた。アニメの女の子は可愛いし、可愛い女の子が出てくると幸せな気分になる。
それで先週、高円寺のゲームとかアニメが好きな人が集まるDJブースのあるバーのような所でアニソンDJのイベントに遊びに行ったのだった。ここは昔アイドルだった頃、私のファンの人たちが私に向けたラップをするという不思議なイベントをやった時に一回来たきりだったけれど、最近になって店員の人が友達の友達だということが分かってから、私にも合いそうなイベントがあったら遊びに行ってみようかなって常々思っていて、ヒマな時にイベントをチェックするようになったのだった。私はアニメの話ができる友達が欲しかった。

最初に出来た友達はDJのにゃん氏だった。イベントに2時間遅刻してきた彼が謝罪よりも先にマイクで「遅刻」と言う概念についての憎悪をとうとうと語るのを見て、この人も労働に向いてなさそうだなと親近感がわいた。

 

「遅刻」というものについて、歴史を過去にたどって眺めてみると、せいぜいここ百数十年程度しか存在していない、極めて新しい観念であることがわかります。つまり「時計」ひいては「クロノス時間」などという反自然的で機械的なものに人間が束縛されるようになって登場した、まったく人為的な事態が「遅刻」なのです。 ですから、人間本来が持つ自然な「心」=「カイロス時間」にしてみれば、機械の時間に合わせて季節も体調も関係なしに起きなければならないことなど、不自然極まりないことであり、やりたくないに決まっているわけです。それを、社会化された「頭」の命令にいつも無理に従わされて、いやいや毎朝起きているのが現代人の実状なのです。

 

なんだか自信満々にそんな事を言われると私なんかは段々と、そうなのかもしれない・・・と思えてきてしまうから危険だ。そんなにゃん氏が紹介してくれたのがアニオタのゆうくんとコンカフェでバイトしてる段原だった。ゆうくんはこういうイベントには初めて来たということだった。彼は風俗のお店に手作りの台本を持ち込んで好きなエロゲーのシナリオを最初から最後まで完全再現するためにここ2年間、収入のほぼすべてを費やしてきたのに、クリア目前で出入禁止になったことがショックで拒食症になっていたらしく、にゃん氏が元気づけるために今日のイベントに誘ったという事だった。にゃん氏のDJ中にはVJの映像が写されるスクリーンにゆうくんの映像が流されていた。
重度の2次元コンプレックスのゆうくんは、現実の女の子とするにはバイアグラを使わないとダメで、バイアグラの多用からくる副作用で錠剤の前で頭を抱えてうんうんうめくゆうくんの映像が、映画「AKIRA」のクライマックスで暴走しそうなAKIRAが頭を抱えて悶絶するシーンと並べられて写されていた。バックにはエロゲーの主題歌が流れていて、私はただ呆然とそれを見ていた。励ますって、難しいな。

 

段原の下の名前はとても可愛いんだけど、本人は気に入ってないようで、名前で呼んでもぷいとそっぽを向いて聞こえないふりをする。
段原は「幸せになりてえ」が口癖で、最近彼氏と別れたばかりだった。付き合っていたころは彼氏の束縛が激しくてこういう所来れなかったからずっと来てみたかったと言っていた。段原の彼氏はバンドマンで風俗店の店長で野菜屋さんだったけど、扱っている野菜が非合法で今は刑務所にいるらしい。

「飲み物を見るの。コーラを飲んでる男はアウト。覚せい剤をやるとお酒がまずくなって、コーラばっかり飲むようになるの。あと香水をしてる男もダメ。覚せい剤で体臭が変わるから、それをごまかしてるかもしれないでしょ」

 

その日、スパイファミリーの話題で意気投合した私たちは「アーニャが好きだったら嫌なもの」を言い合う遊びをして始発まで過ごした。
私の「肉寿司」が賛同を得られずにその日13杯目のテキーラを飲み干すと、お店のテキーラが切れたので最後に締めの乾杯をして解散することになった。私だけお水を頼んだら段原が抱きしめて頭をなでてくれた。
グラスがみんなに行きわたるとにゃん氏が乾杯の音頭を取ってくれた。「別れには理由が有るが、出会いに理由は無い。我々の出会いに乾杯」友達が苦しんでいるのに介抱もせずスマホで淡々と動画を撮ってるのは人としてどうかと思うけども、こういう時にとっさに何か気の利いた事を言えるのはすごく偉いなと思った。

 

お店を出て、駅まで段原と二人で歩いた。歩きながら段原が今日何度目かの「幸せになりてえ」をつぶやいたので、それ口癖だよね。って笑った。「彩花ちゃんは口癖ってなんかないの?」って聞かれて、あるよ。なんかあるとつい「死にたい」って口走っちゃう。って言ったら「世をはかなんでるんだね」って言われた。私は世をはかなんでいたのか・・・と一瞬だけ思ったけど、私がはかなむのは私自身で、世の中に対してどうとかこうとかはあまり思ったことが無い。まぁ今日は暑いな・・・とか風が強いな・・・とかは思うけど。世の中ってそういう事じゃないでしょ。